減ったとは言え年間70~80万戸も新築住宅がつくられている国、日本。住宅産業もその現状に引きずられ続けている。一方で人々の生活はここ数年で大きく様変わりし、既存の産業を大きく超えるものになりつつある。“箱”の産業から“場”の産業への変遷を分析し続ける神戸芸術工科大学学長・松村秀一さん(ジャパンホームショー&ビルディングショー実行委員長)に話を伺った。
(聞き手=新建ハウジング発行人・三浦祐成)
———————————–
[松村 秀一氏プロフィール]
神戸芸術工科大学学長。専門は建築構法・建築生産。主な著書に「新・建築職人論-オープンなものづくりコミュニティ」(学芸出版社)「空き家を活かす-空間資源大国ニッポンの知恵」(朝日新書)、「ひらかれる建築-『民主化』の作法」(ちくま新書)、「建築-新しい仕事のかたち 箱の産業から場の産業へ」(彰国社)、「箱の産業」(彰国社)、「『住宅』という考え方」(東京大学出版会)など。
———————————–
■大手とは違う人・センスとものづくりが工務店の強み
三浦 住宅の中の場だけではなく、生き方や住む場所が多様化した人生の中における場という概念に、住生活に関わる産業が寄り添っていかなければならないとも言えますね。
松村 かつて、セキスイハイムM1を開発された故・大野勝彦さんから「大企業に勤める人は大企業が好き。だから大手住宅メーカーのシェアは大きい」という意見を伺ったことがあります。この意見が正しかったとしても、例えば大企業に勤める人が必ず全国チェーンのレストランで食事するわけではありません。小さな町の飲食店を選ぶ人もいますよね。住生活の分野も、食と同じような状況になるのではないかと予想します。
供給者としては、大企業にしかできないことも確かにあります。でも限界もあるでしょう。地域工務店は、大企業とは全く違う人材やセンスを持っているからこそ全く違う価値を生み出せる可能性が高いはずです。住宅産業が箱の産業から、地域の住生活産業に変化すると、大企業にはできないことが、工務店ならたくさんできるはず。それに期待しています。
また「建築物を触る能力」は今後も不可欠です。空き家を活用するとき、DIYで対応できる部分はあるにしても専門家の力が必要になる場面は多々ある。ものづくりの力を確保している存在としての工務店が、大きな意味を持ってくるのではないでしょうか。他産業からの参入ではそうはいきません。
■建築にとらわれず生活の質を考える場へ出よ
三浦 人生・生き方先行型の住生活産業はすでに動き出しつつあるように感じますが、これまで箱の産業を担ってきた工務店が、新しい住生活産業にしっかりコミットするには何が必要になるでしょうか。
松村 まずは生活者としての経験と発想の豊かさが必要でしょう。生活のことを考えていくわけですからね。
ジャパンホームショー実行委員の山本想太郎さん(建築家)が昨年『超インテリアの思考』(晶文社)という本を出されたのですが、彼曰く「今はインテリアだ」と。
確かに、ジャパンホームショー内で毎年開催されているみらいのたね賞の受賞作を見ていると、照明が仕込まれたブックエンドとか、文房具のようなものが受賞するようになっています。生活の質を高めるのに、もはや建築の一部であることは重要ではありません。もっと広がりを持ち始めている。ジャパンホームショーでもインテリアの展示会が併催されていますが、これからはインテリアの分野、つまり住宅・建築以上に生活に近しいものの中に、生活の質を明らかに変えるようなものが含まれているんです。
それから、小さな企業が意外とチャレンジングな建材を開発していたりもします。大手が開発しているものにはない斬新さがあって、実は展示会の会場でたくさんそれが見られたりもする。自社の経営に直結する視点はいったん置いておいて、面白いものを探して楽しむ、という気分になってみるのもいいと思いますよ。
特別インタビュー前編は新建ハウジングDIGITALで公開しています。
■インタビュー前編はこちら>>>https://www.s-housing.jp/archives/365731